就労継続支援B型事業所「ハーモニー」(新澤克憲施設長、東京)は、通所する精神障害者の幻聴や妄想をかるたに落とし込み、それを名刺代わりに人との縁を広げている。この夏、せたがや文化財団主催の市民向けワークショップ「障害と出会う」に利用者が出向いて交流した。
「あ=ある時はアラン・ドロン」「ま=また来たぞ、バスの中が宇宙船」。俳優になることを夢見る男性、バスが宇宙船に見える男性の体験を反映した札を広げ、一緒にかるた取りを楽しんだ。
ハーモニーがそんなかるたを作ったのは2009年。利用者の入れ替わりに伴って中身も入れ替え、これまで3作を世に出した。
「かるたが対話のツール(道具)になり、外部の人がいろいろなことを付け加えてくれるのが楽しい」と施設長の新澤さんは言う。
例えば、20代後半で神経症と診断された益山弘太郎さん(63)は、かるたを機に詩集も作ったところ、プロの写真家とのコラボレーションに発展。詩と写真をセットにした作品を仕上げ、トークイベントにも登壇した。
「ハーモニーに通う前、こんなことになるとは夢にも思わなかった」と益山さん。ほかの利用者も講演や学校の授業に呼ばれて自己開示するにつれ、視野が広がるのを実感した。講演料は工賃に反映され、公園清掃など日常の作業にひけをとらない稼ぎになる。
そこに目を付けたのが、せたがや文化財団の劇場「世田谷パブリックシアター」の職員の中村麻美さん。演劇など芸術活動に関心を持つ市民がハーモニーの利用者と触れ合えば、新たな創作につながると踏んだ。
幻覚に似た経験を参加者から募り、「用足しに便器に座りハッとする、ここはホントにトイレかな?」といった句が出来上がると、会場が沸いた。「ハーモニーに足を運んでみたいという参加者もいた」と中村さんは手応えを感じた。
「障害者が人と偶然出会う機会を、私たち支援者が奪ってはいけない」と新澤さんは話す。間口は広く、敷居は低く――をモットーに、かるたを通じた縁結びを続けていく考えだ。